大好き‥だよ。
先生は持っていた書類の端を両手で掴み、机の上に叩きつけて整えた。

『教室に残ってるのは桜井一人か?』

『そう‥みたいですね』

『そっか』

少し残念そうな表情をしながら、動かしていた手を止めた。そんな姿を私はぼんやりと見ていた。

すると突然教室の扉が勢いよく開いた。驚きのあまり肩がビクンと上がった。恐る恐る扉の方を振り向くと、そこから入ってきたのは俊チャンだった。

『あれ?』

私を見て一旦はその場に止まったが、またすぐに先生の机に向かって歩き出した。先生は深く椅子に腰掛けて俊チャンを待ち構えていた。

『4時30分に教室にいろって言わなかったか?』

下から見上げるように言うと、俊チャンは少し考えてから答えた。

『そう‥かも』


私は出来るだけ俊チャンには目をやらないように自分を操った。先生を見るのも下を見るのも何だか違うような気がして、何となく外を見ていた。

先生は頭を左右に何度も振り、それから持っていたプリントを見ながら話し出した。

『2人とも、まずこの書類に目を通してくれ』

渡された1枚の紙には、陸上クラブの規定が簡単に書かれていた。

『練習日は週に2回。火曜日と金曜日で、ともに4時30分からだ。授業が終わってから練習会場に行くと時間より大分早く着くな。どうするか‥隣の空き教室で宿題でもやってるか』

『宿題~?』

嫌そうに言うと、先生は俊チャンの頭を物差しで叩いた。

『痛っ!』
『それとも何か。練習が終わってから家でやるって約束できるのか?』

『それは‥』

『だろ?
じゃあ、桜井も一緒に残って宿題やってけ。っていうか、松浦の監視役に近いかもな(笑)』

『『えっ!?』』

声が揃った事で思わず俊チャンを見た。俊チャンもまた、私を見ていて目が合ってしまった。

ど、どうしよう‥

パニックに陥った私は、露骨に目を逸らしてしまった。

ヤバイ‥

両目をギュッとつぶり下を向いてると、カリカリと鉛筆で何かを書く音が聞こえてきた。
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