大好き‥だよ。
右目だけ少しずつ開けると、俊チャンが先生に1枚の紙を渡している所だった。

『はい。名前書いたんでもう帰ってもいっすか?』

『あっ、あぁ‥‥あと!スパイクは持‥』
『持ってません』

『わ、分かった。じゃあ、練習は今週の金曜日からだから』

そこまで聞くと、私たちに背を向けて扉に向かって歩き始めた。

どうしよう‥何も話してない‥‥そう思ったら、勝手に体が動いていた。

扉に左手をつけて、頭だけ廊下に出して叫んだ。

『俊チャン!!』

私の声を聞いて歩くのを止めてくれたけど、振り向くことはなかった。もう一度名前を呼ぶと、右手を上げて振りそのまま下駄箱に向かって帰って行った。2回目も振り向いてはくれなかったけど、俊チャンなりの返事を返してくれて‥少しだけ安心することが出来た。


しばらく誰もいない廊下を見つめていると先生に呼ばれた。

『桜井もこの紙に名前書いてくれないか?そろそろファックスで送らないと‥』

『はい!すぐ書きます』

駆け足で机に近寄り、登録用紙に名前を書いた。

『桜井はスパイク持ってるか?』

『持ってないです』

『了解。それから‥』

先生は帰り支度をしながら話し始めた。

『松浦と何かあったのか?』

『へっ?何かって何ですか?別に何も‥』

その場から逃げるように自分の席に戻り帰る準備を始めた。

『何も無いならいいんだけどな。ただ、少し気になったからさ』

『気になったって何にですか?』

半笑いで返事をすると、先生も半笑いをしていた。

『まっ、いいけど。
とりあえず今は陸上に集中しろ!そうすれば余計な事とか考えなくなる。桜井、最近授業に身が入ってないしな』

『そんなこと‥』

『そんなことないってか?気付いてないかもしれないが、授業中ボーっとしてること多いぞ?松浦もだけどな』

『俊チャンも?』

先生の返事を待ったけど、それ以上は何も言ってくれなかった。それどころか、早く教室から出ろと急かされた。
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