大好き‥だよ。
『結さん?結さーん?』

左側から名前を呼ばれた。
正面には誰かの手があって、左右に高速で揺れている。何だろう、これ?ピントが合うのに5秒という時間が掛かった。

『大丈夫?』

『うん‥』

全然大丈夫じゃないけど、とりあえずそう答えた。

『俊と何かあった?』
『‥‥えっ?何で?』

一気に目が覚めた。勢いよく左を振り向くと、私の反応を確かめもしないで悠君は正面を向いて笑っていた。

『何でって。
だって、結さんが何かに悩んでいたりぼーっとしている時って大体、俊絡みだからさ』

『‥そんな事ないよ‥』

口ではそう言ったけど本当はそうかもしれない。俊チャンの言動に一喜一憂する出来事が浮かんできた。今日だって放課後呼ばれてる事に幸せを感じていた。放課後‥放課後!?
机に両手をついて、その反動で立ち上がった。

今、何時?

時計に目をやると予定の時間まで15分くらいあった。呆然としてる私をしばらく見ていて、それから言った。

『そうだ!結さんに渡したいものあるんだ』

『ん?何?』

悠君がランドセルの中をあさっている間に席に着いた。

『今日ホワイトデーでしょ。だから、これ』

そう言って、可愛くラッピングされた物を手渡された。

『えっ?私受け取れないよ!バレンタインに何もあげてないのに』

悠君の机の上に押し戻した。でも、すぐに私の机に置かれた。

『悠君‥』
『いいんだ。深い意味はないからさ。これからも宜しくっていう気持ちだから‥だから受け取ってくれないかな?』

『で、でも‥』

『お願いっ!!』

頭まで下げられたら、これ以上拒む事が出来なかった。「ありがとう」とお礼を言って受け取ったけど、この場にいるのが気まずかった。

少し早いと思ったけど、逃げるように俊チャンとの待ち合わせの場所へと向かった。
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