大好き‥だよ。
『俺も山に行った所を想像してた。もしかしたら、同じ場所を見ていたのかもな』

『そうかも‥ね』

その後は何も話さなかった。桜の花びらがヒラヒラと舞い降りてくるのを、目で追っていた。いつかそんな日が来ますようにと願いながら。


楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
早く帰るようにと、急かすように下校のチャイムが繰り返し鳴っていた。スヤスヤと眠っていた俊チャンは両手を組んで欠伸をした。もう、隣には俊チャンの手はなかった。

その瞬間、寒気のようなものを感じた。手を伸ばせば届く距離にいるのに、何処か遠くに行ってしまいそうな‥そんな予感がした。

『ん?どした?』

首を傾げながら私を見ている。
顔が見れたからなのかな。少しずつその不安は取り除かれていった。黙って私の顔を見続けていた俊チャンに、微笑みかけた。

『何でもないよ』

先に立ち上がって草を取り払った後、大きく背伸びをした。冷たくて静かな空気は快適だった。

遠くの山を眺めていると隣に俊チャンが立っていた。そして眠そうな声で独り言みたいに言った。

『えっ?』

横を向きながら風になびいた髪を耳にかけていると、後ろから声が聞こえた。どう考えても私たちに呼びかけていると思ったので、素早く振り返ると、華代と和樹君が手を振りながら叫んだ。

『ほら、帰るぞ』
『結~』

『うん、すぐ行く!!』

華代たちの元に行く前に確認したい事があったので、すぐには追いかけなかった。俊チャンを見ると、私の反応を面白がっているような笑みを浮かべていた。

『ねぇ‥さっき言った事って‥本気?』

『さぁな(笑)』

3人の元へと歩き出そうとしたとき、故意にしたのかそれとも偶然なのか、指きりをするようにお互いの小指が絡み合って離れた。たまたま俊チャンの体が死角になっていたので、遠くにいた3人には見えなかった。まるで2人だけの秘密の約束をしたみたいだった。
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