大好き‥だよ。
『うん。これだけいれば男子はリレーに出れるな。女子は、桜井と華代だけだから‥個人種目か。でも悪くないかも』

表情は普段と変わらなかったけど、目だけは真剣だった。本気でこのメンバーでリレーに出たいって訴えていた。あの様子だと、走る順番も頭の中で思い描いているのかもしれない。そんな風に見えた。

『ちょ、ちょっと待てよ!!俺まだ陸上クラブに入るなんて決めてないぞ?』

『俺も。
去年の俊と桜井の見てるしな‥。最初の頃なんてゲッソリしてたし。それに、今日の鬼ごっこで結構懲りたっていうか‥』

『分かってる。これはあくまでも俺の意見であって強制なんてするつもりないから』

『そっか。それを聞いて安心した。ってか、こういう時は経験者の俊を真っ先に誘うべきなんじゃねぇの?』

『俊は‥』

そこまで言って黙ってしまい、仕舞には私を見てきた。

えっ?

右手の人差し指で私自身を指すと、和樹君はカクンと大きく頷いた。私から説明しろってことね‥。風で靡いた髪を耳に掛けてから、みんなに聞こえるように話した。

『俊チャンは‥。俊チャンはね、今年は‥ううん。今年も来年も陸上クラブに入らないんだ。今年からはリトルリーグに入部するからさ』

『へぇ。でも、じゃあ何で去年は陸上やってたんだ?』

『それは‥。
堀内先生がね、ピッチャーは体力作りを怠っちゃいけないって半ば強制だったみたいだよ』

『桜井、詳しいな(笑)』

『そっそんな事ないよ!!和樹君だって知ってるし、ねっ?』

必死に同意を求めたのに「俺は知らなかった」って笑いながら否定された。遣る瀬無い思いと恥ずかしさが一気に込み上げてきて、顔が真っ赤になった。

『もう帰る!!』

誰とも顔を合わせることなく大声で言って、校門に向かって歩き出した。途中で「明日な」とか「気をつけろよ」という声が聞こえたけど、振り向かずに手を振ってバイバイという言葉を示した。

とりあえず、みんなから姿が見えなくなるまでは、無我夢中で早歩きで帰った。
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