大好き‥だよ。
普段通らないような道で曲がると、先の見えない細い路地へ繋がっていた。何かに引き寄せられるようにその先を進んだ。

周りは塀で囲まれていて特に目立つものはない。風もなく静寂に満ちていた。そんな静寂の先に何か待っているような、そんな衝動に駆られた。

50メートル程進むと漸く光が見えてきた。ほんの数メートルを懸命に走ると、行き止まりにぶつかり、新たに道が左右に分かれていた。どっちに進もうか考えていると、私のすぐ横でタクシーがクラクションを鳴らして停まった。突然の事で、その場に立ち尽くしていると、私を睨みつけながら強引にタクシーを走らせた。

3歩後ろに戻り、深く頭を下げてタクシーを見送った。

ゆっくり大きく深呼吸をして、息を吸い込み風を全身で受け止めた。風なんて何処も一緒だと思っていたけど、ここは違った。悩み事を吹き飛ばして、私に安心を与えてくれるようだった。

草むらがカサカサと鳴り自然と瞼が閉じていった。気持ちよすぎて、塀に寄りかかってそのまま眠ってしまいそうだった。


視界がなくなると、次に聴覚が敏感に働いた。さっきまでに気にならなかった鳥の鳴き声や、遠くの方では車の走る音が頻りに聞こえてきた。更に聞き耳を立てていると、奇妙な音が聞こえてきた。

パン

パーン

その音は次第に間隔が狭まっていき、今にも消えてしまいそうだった。その音が気になった私は、正体を突き止めるために音のする方へと歩き出した。
< 226 / 270 >

この作品をシェア

pagetop