大好き‥だよ。
音は、ある空き地の中から聞こえてきた。大きな木に身を隠して覗き込むと、2人の男がキャッチボールをしていた。帽子をかぶっていたから顔は良く見えなかったけれど、同じ年くらいだと思う。

1人は右手にグローブをはめ、もう1人は左手にグローブをはめていた。2人がどんな言葉を交わしているのかは分からないけど、とても楽しそうだった。

『あっ、悪い!!』

左手にグローブをはめていた人の手が狂い、ボールが私のいる方に転がってきた。咄嗟に2人に背を向けるようにして、気付かれないようにじっと立った。

『大丈夫っすよ』

幻かと思った。ボールを取りに来た人の声が俊チャンにそっくりだったから。まさかこんな場所に‥ね?この時はまだ半信半疑だった。

『いきますよ』

パーン

掛け声とグローブにボールが当る音が聞こえ、キャッチボールが始まった。再び覗き込むと、俊チャンかもしれないという先入観を抱いているからなのか、どうしてもそう見えてくる。

じっと見つめてみた。
右手にグローブって事は利き手は左。歩き方、背格好、声‥やっぱり、どれを採っても俊チャンにしか見えなかった。でも、どうしてこんな所で隠れてキャッチボールなんてしているんだろう?疑念を抱いた。


確認が取れないまま時間だけが過ぎていった。

風が止まったことに気付くと、いつの間にかキャッチボールも終わっていた。俊チャンはもう1人に頭を下げると、今度は塀に向かってボールを投げ始めた。もう1人の人はというと、こっちに向かって歩いてきた。

キョロキョロ見渡して、気付かれないように今のうちに隠れようと思った。そういう指令を送ったはずなのに、体が勝手に動いていた。見たことも話したこともない人の前に立って声をかけていた。

『あ、あの!!』

男の人は突然の事で凄く驚いていた。「突然ごめんなさい」と言いながら頭を下げると、物珍しそうな目で私を見ていた。こんなに間近でジロジロ見られる事なんてないから、変な汗が流れた。

とりあえず、簡単な自己紹介と俊チャンとの関係を一気に説明した。始めは警戒心むき出しだったけど次第に解けていき、初めて笑顔を向けてくれた。
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