大好き‥だよ。
やっぱり入るんじゃなかった。

入ってすぐに後悔した。
中は薄暗くて先がよく見えなくて、遠くの方から不気味な声が聞こえてきた。独特の臭いが嗅覚を襲い、生温い風を肌で感じた。

『ねぇ、俊チャン』

やっぱり出ない?

そう言おうと思ったとき、肩にヌルッとした何かが当った。恐怖で全身に鳥肌が立ち、咄嗟に俊チャンの服の袖を掴んた。

『どうした?怖いか?』

怖い、怖いよ‥

声に出してその気持ちを伝える事が出来なかった。ギュッと目を瞑り、何も見ないようにした。そして、俊チャンから離れないように掴んでいた手に更に力を加えた。

普段とは明らかに違う態度に俊チャンが気付いた。

『ったく‥』

そう言いながら、ポケットから手を出し、その手で私の震えた手を優しく握り締めてくれた。

っ!!!!

予想外の出来事に戸惑いを隠せなかった。

握られた手から伝わる温もり、少し早い脈‥‥今、どんな顔をしているの?

そう思いながら、ゆっくりと目を開けた。横を向いていて表情は見れなかったけど、照れているのが分かった。私の視線に気付いたのか振り返り、目が合った。何も言わずに、反対の手で頭の後ろをグシャグシャと掻いていた。


ほっと胸をなで下ろしていると、俊チャンの顔が近づいてきて思わず下を向いた。

『走るぞ』

そう耳元で囁かれ胸が高鳴った。

その後のはにかんだ笑顔に見とれてしまい、何も考えられなくなった。頭の中が俊チャンの笑顔で埋め尽くされ、頬を赤らめた。
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