大好き‥だよ。
大会が始まった1週目と2週目は陸上クラブの大会と重なっていた為、応援に行くことが出来なかった。

ううん‥

俊チャンから誘われてないから、大会がなくてもグランドに足を運ぶ勇気はなかった。

クラスの皆は応援に行っていた。
試合のあった次の日は、朝から俊チャンの話題で持ちきりだった。あの場面が凄かった、あいつの一振りで流れが変わったなど、しばらく興奮は冷めなかった。

当の本人は、涼しい顔をして皆に背を向けるように、じっとベランダから空を眺めていた。

遠くから見守るように俊チャンの後ろ姿を見つめていると、前に先輩が言っていた言葉を思い出した。

“あいつな、俺にこう言ったんだよ。エースナンバーをつけてマウンドに立つ姿を見せたい人がいるって”

“それって、きっと君の事だと思うよ”

その瞬間、ベランダから教室に風が吹き込んできた。風に流された髪の毛を耳にかけ、その場にしゃがみ込んだ。


先輩‥やっぱり誤解してますよ。俊チャンが私を誘うなんて‥あり得ません。だってそうでしょ?先週も先々週も試合があったけど、何も聞かされてないんですよ。登板することも、試合結果も何一つとして。

先輩に話した「マウンドに立つ姿を見せたい人」この人にはきっと何もかも話してると思いますよ。話してはないか、グランドに誘えば全てを見せる事が出来るから‥


ねぇ〜、俊チャン。

“待ってて”
その時効はいつまでなのかな。

去年みんなと遊園地に行った時に言いかけた事って本当は何だったの?

“もう少ししたら‥”
何が待っているんだろう。あの時、聞いておけば良かったと今さら後悔した。


ガラガラガラ

担任の先生が険しい表情で教室に入ってきた。あまり良い知らせではないという事は、先生の周りを取り巻くオーラで分かった。普段は言う事を聞かない西山君が、珍しく素直に席に着いた。

『え〜っとな、今日は本当に残念な知らせがあります。鳴海、その場で良いから起立しろ』

何故か悠君だけを立たせた。理解に苦しむあまり、みんなは悠君の表情に注目した。いつもなら無邪気に微笑む悠君の顔からは、笑顔が消えていた。

どうした‥の?

先生の次の言葉にクラス全員が固まった。
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