大好き‥だよ。
ニヤッと不気味な笑みを浮かべてから話を続けた。

『俺、その日は見送りに行くから♪』

『はっ?別にいいよ、照れくさいし。それに男に見送って貰っても嬉しくないし』

『そんな寂しいこと言うなよ〜』

体をクネクネさせながら甘ったるい口調で言うと、悠君は冷めた目で見ていた。こんなやり取りも、もう見れなくなると思ったら誰も笑えなかった。

クラス全体がどんよりとした空気に包まれかけたとき、華代の明るい声が教室の中に響いた。

『じゃあ、私も鳴海君の見送りに行く♪』

『えっ?何で?』

『何でって。今、男に見送って貰っても嬉しくないって言ってたから。だから私が行けば何の問題もないでしょ?(笑)
結も一緒に行こうよ!!』

『う、うん‥』

流れで私も一緒に行く事になった。

『そうだ!!休みの日なんだし、クラス全員で見送りに行くのはどうかな?』

華代が提案すると、花梨が申し訳なさそうな顔をしながら右手を挙げた。

『ごめん‥、私達その日は行けないよ。週末はリトルリーグの決勝戦の日だから、俊の応援に行くって皆で決めたの。だから、ごめん‥』

『そっか‥』

華代の声は震えていた。


私は、この数分間の会話をどう整理すればいいのか分からずにいた。いろいろな事がありすぎて‥

悠君が転校してしまうこと。
リトルリーグの決勝戦が週末にあること。
その2つが同じ日にあること。

その試合に俊チャンが投げるかもしれないこと。
皆は知っていたのに、私は知らなかったこと。

そして‥成長した姿をずっと見せたかった相手は「花梨」かもしれないということ。

応援に行きたいけど‥私は‥

歯を食いしばってある一点を見つめていると、切なそうな表情で悠君が私を見ていた。

『結‥さん‥』

その声はあまりにも小さかったので、私の耳には届かなかった。


パンパンパンッ

先生は注意を惹き付ける為に3回手を叩いた。その音に過敏に反応した。

『そんな大人数で行ったら迷惑だろう。見送りに行くのは3人で充分だ。いいな?』

『『『はぁ〜い』』』

渋々返事をして、その日のホームルームは終わった。
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