大好き‥だよ。
試合が終ると同時にグランドを後にした。クラスの誰にも声をかけずに‥。

たぶん、私がここに来た事は誰も気付いていないと思う。それでいいの。誰にも知られたくなかった。俊チャンの活躍する姿が見れただけで充分満足。背中を押してくれた悠君に感謝しながら、ある場所へと向かった。


『懐かしい~。確か2年前に来たんだよね』

休日の為、門にはしっかりチェーンと鍵がかけられていて中に入ることは出来なかった。白い柵に手をついて少し覗いてみたけど、カーテンも閉められていて人を惹きつける雰囲気は全く感じなかった。

保育園児の声が響き渡るのが嘘みたい。

そんな事を思いながら、近くのバス停に行きベンチに浅く腰掛けた。さっき見た緊迫した試合の興奮がなかなか冷めなくて、頬が緩みっぱなしだった。

今のこの気持ちを誰かに伝えたかった。喜びを一緒に味わって欲しかったけど、周りには誰もいなかった。

ベンチに深く腰掛け直し空を見た。青く澄んだ空が一瞬だけ笑っているように思えて、あの試合を見ていたと直感した。風も優しく吹き出し、植物が踊っているみたいだった。


気付いたら空に向かって話しかけた。

『俊チャン、格好良かったよね。決勝のマウンドで大活躍だよ。あの4番をね(笑)
大事な試合を見れて本当に良かった。
お疲れ様って言いたかったな。明日学校で逢うけど今日言いたいの。お願い、俊チャンに逢わせて?』

そんなお願いをしても叶えてくれるはずもなく‥。

それでも「逢いたい」という気持ちを持ち続けた。思いが膨らめば逢えそうな気がしたから。


しばらくすると風が突然止まった。

ぼんやりと遠くを見ていると、人の気配を感じた。

『こんな所で何してるの?』

声のする方を向くと、そこに立っていたのは息を切らした俊チャンだった。

『な、なんでここに?』

思わずその場に立ち上がると、足の上に置いてあったバッグが足元に落ちた。

『その前に、横座っていい?』
『‥うん』

頷くと、落ちたバッグを拾ってベンチに置いてから俊チャンは座った。私はただ茫然と立ち尽くしているだけで「ありがとう」という言葉すら出てこなかった。
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