大好き‥だよ。
『あ~面倒くせぇ。こんなの、やってらんねぇよ』

『本当本当。先生!放課後の練習って今日で最後にしませんか?』

一人が駄々を捏ねると、次々に不満の声が飛び交ってきた。

『そんなこと言わないの。音楽会はすぐなのよ?今日まで皆で頑張ってきたんだからもう少し練習しましょう』

先生の言い方はとても優しかった。けど、決して二人から目を逸らすことはなかった。彼らもまた、目を逸らさなかった。そんな先生の真っ直ぐな姿勢を見てなのか、二人は少し反省していた。

下を向きながら、右手で頭の後ろをグシャグシャと掻いていると、二人の傍に先生は軽い足取りで近づき、頭を撫でていた。

二人に笑顔が戻り、緊迫した空気から解放されたと思ったのに‥もう一人、先生に刃向かう人がいた。


『先生、俺も放課後の練習は嫌です』

その声に反応するように、クラスの全員が音楽室の出入り口を見た。そこにいたのは俊チャンと田中さんだった。

『松浦君?』

俊チャンは音楽室の階段をゆっくりと下っていき、先生の前で立ち止まった。

『放課後は歌の練習よりも体を動かしたいんです。俺らはそれを我慢して、今もこうして集まっているんです。だから‥音楽会で上位3位以内に入ったら、校庭の確保してくれませんか?』

『校庭の確保?』

先生はきょとんとした顔で俊チャンを見ていた。

『そうです。先生の権力で校庭を押さえてください。約束してくれるなら、俺らは音楽会までの残り少ない時間を練習に専念します。な?』

そう言って私たちのいる方に振り向いた。
一瞬、唖然としてみていたクラスの男の子達は、次第に今の会話を理解したらしくざわつき出した。


先生は少し困ったように、「うーん」としばらく考えていたが、笑いながら「分かったわよ」と言った。そのとき、ざわついてた皆の表情が一瞬固まった。




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