大好き‥だよ。
音楽の時間はもちろんのこと、放課後もクラスみんなで残って練習をした。今日は、先生の提案で自分達の歌声をテープに録音することにした。

『はじめるわよ』

緊張が一気に頂点まで達し、少し冷や汗が出てきた。

俊チャンは大きく深呼吸をしてから指揮棒を上げた。私たちはそれを見た後、今度は視線だけでなく体も指揮者の方に向けた。全員が向いたことを確認してから、ピアノの方に上半身だけ動かし二人はアイコンタクトをしていた。

その姿に一瞬ドキッとした。
これは、指揮者とピアノのやり取りなんだよ?と、自分に言い聞かせたけど、違和感のない二人に思わず目を閉じてしまった。

その後どんなやり取りがあったか分からない。けど、田中さんが奏でる綺麗なピアノの音色が音楽室を包み込んだ。ゆっくり目を開けると、俊チャンは楽しそうに指揮棒を振っていた。先生も、目を瞑りながら気持ち良さそうに体でリズムをとっていた。

前奏が終わりいよいよ出番が来た。私たちは、指揮棒の幅に合わせて声の強弱を強調したり、ピアノの音に合わせて速度を調整した。

いつしか、程よい緊張の中に「楽しさ」を感じていた。


そして5分後‥指揮棒とピアノの音が止まった。私たちは、ドキドキしながら録音が終わるのを待った。

『よく出来ました』

先生が優しく微笑むと、クラス全員がテープの周りに集まった。


『先生、早く聴こうよ!!』

『俺も早く自分の声が聴きたい』

『自分の声じゃなくて、みんなの声ね』

女の子の冷静な突っ込みにみんなが笑った。
その後ほんの少し、近くの友達とおしゃべりをしていた。すると


ガチャ

巻き戻しが終わった音がした。私たちは先生の右手をじっと見つめた。


『大変長らくお待たせ致しました。只今よりミニ音楽会を開催します。最初に唄ってくれるのは、元気な1年1組の皆さんです』

そう言って先生は再生ボタンに手を伸ばした。
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