大好き‥だよ。
テープが回り始めると私たちは黙って聴いていた。

普段なら練習中でも聞こえてくる、学校内に残っている生徒の甲高い声や、嫌でも耳にする工事の音も今だけは聞こえてこなかった。音を立てないように呼吸さえも飲み込むように集中した。

5分間が途方も無く長い時間に感じた。


先生が停止ボタンを押すことは、私たちが呼吸をすることを許された瞬間だった。最初に吸った空気は、甘くほろ苦い恋の味がした。だって、私の目の前には息が出来なくなるくらいドキドキさせられる人がいたから‥

そんな私の様子に気付いた人がいた。でも、私が彼を見ていたことに気付かないフリをしてくれた。彼女もまた、同じように片思いをしていたから。


『今の自分達の歌を聴いて、どう思いましたか?』

突然の先生の投げかけに我に返った。私たちは、近くにいた友達と何度も顔を見合わせて、静かに頷くだけだった。すると勇敢な一人の男の子が手を上げて発言した。

『いい感じだった。100点満点だと思う』

一瞬にして音楽室の温度が上昇したのを肌で感じた。


『うんうん。凄いよかった』

『私もそう思う』

『何か、俺らの声じゃない気がした』

次々に意見が飛び交う姿に先生は嬉しそうだった。先生は、耳だけ私たちの方に傾けながらテープに何かを記入していた。

『先生、何書いてるの?』

『それはね‥(笑)ジャーン!!』

自分で効果音も言いながら、自信満々に私たちの目の前にテープを差し出した。テープのラベルには、今日の日付が記されてあった。

『ラベルに今日の日付を書きました。このテープには、100点満点のみんなの歌声が入っています。このテープは、1年1組の宝物です。大きくなったら、みんなでまた聴きましょう。そして、今みたいに感じたことを発表しましょう』

先生の言葉が私たちの胸を締め付けた。戸惑っていると、先生は私たちに微笑んでくれた。静まり返った音楽室に「はーい!!」と言う、可愛らしい声が響き渡った。
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