大好き‥だよ。
華代は右手の人差し指を立てて後ろを指していた。指示通りに振り返ると、こっちに向かって歩いてくる男の子が数人‥

『片思いに早送りの機能がないなら私がその機能を作ってあげる。そして、何度も早送りのスイッチを押してあげる。ほら、頑張って話してきなよ』

そう言って私の背中に新しく装着された「早送り」のボタンを、華代が押してくれた。私は足を引きずりながら一歩ずつ歩み寄った。


近いようで遠い。
遠いようで近い。

この距離がなかなか縮まらなかった。
さっき、自分達の歌声を録音していた5分間と同じ気持ち。音を立てないように呼吸さえも飲み込んだ。

「先生。私はみんなよりひと足早く、さっきの気持ちを思い出しています」


すると突然、なんの前触れもなく彼以外の男の子が音楽室に後戻りして行った。私は驚いて後ろを振り返ると、華代は口パクで「ガンバレ」と言いながら両手でガッツポーズをしていた。

そんな華代から勇気を貰い、「久しぶりに俊チャンと二人きりで話せるチャンスを逃すまいか」と気合を入れなおし前に進んだ。


『しゅ、俊チャン!!』

『あっ、結チャン』

私に気付いて小走りで近くまで来てくれた。
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