大好き‥だよ。
『そっか‥』

それだけ言うと突然笑い出した。
田中さんの笑い声は、嬉しそうではなく、かといって恐怖心もなく、とても切ないものだった。ときどき鼻をすする音も聞こえた。

こんな時、何て声をかけたら良いのか分からず私たちは黙り込んでいた。すると田中さんは振り向き、私の顔をじぃっと見ていた。


『結は‥いつ解けたの?』

その表情は「完敗」を表していた。だから私もオドオドすることなく、普段通り接した。

『答えが分かったのは昨日なの』

『昨日?』

「うん」と短く返事をして、昨日の放課後、皆で集まって会話をしていた場所を見つめた。


『昨日ね、和樹君が俊チャンに目標にしている選手を聞いていたんだ。選手の名前を聞いたとき、ヒントの事を思い出して‥それで家に帰って選手のプロフィールとかを調べたんだ』

田中さんは、うんうんと時々相づちを打って、真剣に私の話を聞いてくれた。

『俊チャンが田中さんに宛てた手紙の文章をね、私全部ひらがなで書き写してたの。その文章と、ヒントの中に隠されていた「背中を飛び越えろ」っていう一文にピンと来て、背中を飛び越えたら答えが分かったの』

言い終わった後、田中さんのいる方を振り返ると不思議そうな顔で私を見ていた。たぶんまだ理解できていないんだろう。私は、担任の先生みたいに黒板に向かって歩き出し、チョークを持って黒板に手紙の文章をひらがなで書いた。

『背中って言うのはね、選手の背番号を示していて、その番号は「3」なんだ。つまり‥』

放課後の補習をしているような気分になって少し楽しかった。私は分かりやすいようにチョークの色を変えて、キーワードとなる8文字に丸をつけた。


『どう?理解できた?』

『そういう‥事だったんだ‥』

田中さんは両腕を組んで、頭を上下に何度も振っていた。
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