アタシタチノオウジサマ
 すると突然、誰かが机をガタッとさせる音が聞こえ、教室がシーンとなった。


 東野さんだった。


 東野さんはツカツカと広美に近づいた。


「東野さん、どうしたの?」


 何となく張りつめた空気が流れ、広美は思わず後ずさった。


「何か楽しそうだなと思って。何の騒ぎ?」


 東野さんは鼻で笑った。


「と…東野さんも見てよ。これ、ヤバくない?リスカ同然だよね。」


 広美は恐る恐るプリ帳を渡した。東野さんは一目見ると、馬鹿にしたような目を向けた。そして、声を低めて呟いた。


「リスカってこんなふざけたもんじゃないよ。」


 突然、東野さんは広美の前に左腕を突き出し、シャツの袖を捲くった。


 捲くられてた左腕には、いくつもの無残な傷が付けられていた。


 その場にいた誰もが息を呑んだ。


「何怖がってんの?さっきまであんなに楽しそうにリスカって言ってたじゃん。」


 東野さんは捲くった袖を元に戻すと、あたしの前にしゃがみこみ、手を差し伸べてくれた。


「大丈夫?」


「…うん。」


 あたしは東野さんの手につかまって、立ち上がった。もう目眩もおさまっていた。東野さんはクラス中を睨みつけた。


「リスカを軽々しく考える奴に人の気持ちなんてわかんねえんだよ。いつまでもガキみたいなくだらねえことしてんじゃねえぞ。」


 東野さんはそう言うと、教室から早歩きで出て行った。誰も何の言葉も出てこなかった。
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