アタシタチノオウジサマ
 あたしは、そんなクラスのみんなを置いて、東野さんを追いかけた。


「東野さん!」


 気づいてないのかわざとなのか、東野さんは振り返りもせずどんどん廊下を突き進んでいく。あたしも必死で後をついていった。そして、屋上へとたどり着いた。


「東野さん。」


 屋上に着くと、もう一度声をかけて見た。東野さんはくるりと振り返った。真顔であたしをみつめていた。


「礼ならいらないから。」


「でも、助けてもらったわけだし…ていうか、あたし東野さんいなかったから、どうしたらいいか分かんなかったよ。」


「あのくらいで怖気づいてるようじゃ駄目だね。世の中にはもっと酷いいじめがいくらでもあるんだから。」


「そんなこと言われたって…あたしも東野さんみたいな強い人間になりたいな。」


「強くなんかないよ…。」


 東野さんはそう言うと少し悲しそうな目をした。


 心の奥に隠している本当の東野さんの姿であるかのように思えた。


 この子の中にはきっと色々なことが隠されているのだろう。


 東野さんのことをもっと知りたくなった。


「東野さんさ、友達作る気ないって言ってたじゃん?でも、あたしはやっぱり友達になりたいな。ていうか、こうやって話してる時点で友達なんじゃないかな?」


「…勝手に友達にしないでくれる?」


「またそうやって…いいもん。あたしは勝手に思い込むから!そして、東野さんに付きまとうから!」


「付きまとうって…まあ、勝手にしなよ。それに、東野さんって呼び方やめてくれる?友達云々じゃなくて、苗字で呼ばれるの好きじゃないからさ。」


 素直に喜んではいないけど、怒っているわけでもなさそうだった。むしろ、前より楽しそうに話してくれてる気がする。


「分かった!葵って呼ぶね。あたしのことも紫音って呼んで!教室でも話しかけてもいい?」


「もうあんたのこと庇っちゃったからね。お好きにどうぞ。」


「素直じゃないな。本当はちょっとは嬉しいでしょ?」


「自意識過剰です。ほら、朝礼始まるよ。」


 あたし達は再び教室へと戻った。なぜだか教室への足取りは軽くなっていた。

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