アタシタチノオウジサマ
 母への不信感が覚醒したのは、中学2年生の頃。
 
 さすが偏差値の高い学校ということもあり、頭が良くてプライドの高い人が多かったが、それなりに友達もいたし毎日楽しく通っていた。母は元芸能人ということもあり、学校でも有名だったが、あたしのように企業の令嬢も結構通っていたので、そこまで存在が浮くこともなかった。

 なのに…母のせいであたしの生活は一変してしまったのだ。
 
 それは夏休みに入るちょっと前のことだった。

「静香、今日も来てないね。」

 亜紀がそう呟いた。友達はたくさんいたけど、亜紀と静香とは特に仲が良く、いつも三人で一緒にいた。静香が突然学校に来なくなってから一週間がすぎた。

「病気かな?亜紀、メールしてみた?」

「返事来ないんだよね。」

 きっと何か理由があって、そのうちまた来るようになるだろう。心配だったがそこまで気にせず楽観視していた。

 それからさらに一週間。静香は突然学校にやってきた。あまりの変わり果てように、誰もが息を呑んだ。いつも綺麗に手入れされていた髪はガサガサになり、頬が少し痩せこけていた。制服のシャツは何日も洗ってないかのように、黒ずんでいた。亜紀は恐る恐る声をかけた。

「し…静香!ずっと休んでたけどどうしたの?心配してたんだよ。ねえ、葵。」

「うん。本当心配かけすぎだよ。」

 あたしは静香の肩に手を置いた。すると、その手をすっと払いのけた。

「静香?」

「あたし、近所の公立に転校することになったから。」

 静香はそう言うとロッカーの中身を鞄に詰め始めた。

「転校ってどういうこと?理由は何?」

 亜紀がそう言うと静香は「理由?」と言いながら振り返った。



「理由は…あんた。」



 静香は睨みつけながらあたしを指差した。


 経営のこととか良く分かんないけど、静香のお父さんの会社はあたしの母のせいで倒産した。静香の家は貧乏な生活へと陥り、私立中学に通えなくなったのだ。静香には申し訳なかったけど、母のしたことだから正しいとしかその時は思えなかった。
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