アタシタチノオウジサマ
 それは中学に入って少しの頃のことだった。

 入学したては早い電車に乗ってたけど、学校生活にも慣れて少し遅めの時間帯に乗るようになっていた。毎日同じ時間。当時、駅のベンチに腰掛けて本を読むのが日課だった。不思議なことにベンチにいるメンバーはいつも一緒だった。みんな同じ時間帯に乗る人達。

 その中の一人が光君だった。

 光君はいかにもがり勉という感じだった。髪は墨よりも黒く、きっちりとした七三スタイル。制服は着崩すことなく、ズボンなんて踝が見えるくらい上がっていた。

 一番特徴的だったのは牛乳瓶の底のようなメガネ。

 あたしも視力が悪くて掛けてるけど、なるべくオシャレなものを選ぶし、度も強くない。初めて見た時は「うわぁ。この人ありえない。」なんて思っていたし、赤の他人に近いから話しをすることだってなかった。


 その日は、寝不足でかなり疲れていた。いつもは夢中になる本も読めないくらい。ベンチで爆睡寸前まで寝てしまい、危うく電車を乗り過ごすとこだった。

「あの、これ忘れてますよ。」

 電車に乗ってすぐ、光君に声を掛けられた。彼が持っていたのはあたしの本。ベンチに置き忘れてたものだ。
「ありがとうございます。」

 あたしは素っ気なく言った。彼のことを少し軽蔑してたのかもしれない。それで、会話は終わると思ってた。

「太宰好きなんですか?」

 光君は馴れ馴れしく話してきた。何というか、容姿に似合わないくらいはっきりした声で。

「…まあ。」

「僕も好きなんですよ。」

「へえ…。」

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