光~夢見るホタル~

おわり

 「あれ?」
ホタルの投げたボールは、形の変な紙ヒコーキみたいに地面に落ちた。
 その先には、へこんだ空き缶、ヒビの入ったビン。
 これが、彼らの遊びだった。
 ボールを投げて、缶やビンを倒して、その数を競う。全部で6本ある的を、1球で何本も倒さないといけない。例えるなら、ボウリング。的も、ボウリングのピンと同じ並びだ。
 まだホタルは、ボールをかすらせることも出来ないでいた。
「次は、俺の番だな」
そう言って、さっきの彼は落ちているボールを拾った。
 得意げに、ボールを上に投げては掴んで、また上に投げる。そうしながら、投げる位置まで来ると、利き腕を回した。
「いけ!デイブ!全部倒せ!」
「新記録出してやるから、よく見とけよ」
観客席は、ホタルの時と違って騒がしかった。
 デイブとよばれた彼は、仲間にとても人気があるようだ。
 彼の人柄か、ルックスか、才能か、センスか、何がそんなに人を惹き付けているのかはわからないが、確かに惹き付けられる、何かがある。
「デイブの最高記録は5本ね。ストライクしかないわね。ま、デイブだし」
壁にチョークで書いているイタズラ書きは、どうやら彼らの記録だったようだ。
 いったい、いつの間にここを自分たちの物にしていたのだろう。
 そう言えば、本の挿絵で見たような秘密基地に似ている。
 穴の開いたイスがあって、木の箱に荷物が置いてあったり。カレンダーも、ちゃんと今日になってる。
 もしかしたら、知らないうちに彼らの秘密基地になっていたのかもしれない。
 カランっ。ガシャーン。騒がしい音が、次々と鳴り響く。
 沈黙。そして、拍手喝采。
 自分は、こんな大きな音を聞き逃していたのかと驚いた。
「ちぇ。割れちまった」
デイブは拾ったボールを仲間のほうに投げると、ビンの破片をひとつひとつ拾って、ゴミ箱に使っている、木箱に入れた。
 割れた物に触ったのに、その手には1滴も血が流れていなかった。
「でも、マジで新記録だぜ!」
デイブの仲間達は、すっかり興奮していた。
 帰ってきたデイブを取り囲んで、ハイタッチをしたり、拳同士ぶつけたり、抱き合ったり、本当に嬉しそうにしていた。
 ただの遊びなのに。
 でもホタルも、すっかりそんなデイブが羨ましくなった。



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