Diamond devil 2
執事の憂鬱
「うー、寒っ!」
神宮寺家から我が家に戻ろうと外へ出ると、辺りはもう真っ暗だった。
まだ北風とはいかないけれど、初冬独特の刺さるような寒さが頬に痛い。
さっさと帰ろうと、中庭を横切ろうとした時、ふと人影が見えた。
「向井…?」
この寒空の下、向井は1人立ち尽くして空を見上げていた。
何してるんだろう?
私は首を捻って近づいた。
「向井、何してんの?風邪引くよ?」
そう言うと、弾かれたようにこちらを見て、小さく頭を下げる。
「姉御…。今、ちょっと星を見てました」
「星?」
思いがけない答えに面食らって、それから私も向井に倣って空を見上げてみる。
「…わ。綺麗…」
確かに今日の空はとても綺麗。
真っ黒い布の上に何億個もダイヤモンドを散りばめたみたい。
思わず見とれていると、向井が言った。
「冬は空気が澄んでいるから、星がよく見えるんですよ」
「へぇ。向井って何気にロマンチスト?」
「いえ。昔を思い出していただけで。…自分は、ちょうどこんな星の綺麗な冬の日に、お嬢に命を救われたんです」