シュガー・ラブストーリー
始発の電車が、夜明けの街を走り抜ける。
真冬の空は、まだ暗いままだ。
車窓を流れる街も眠っているようだった。
普段は満員の電車も始発は人も疎らで、俺が乗っている車両には誰も乗っていなかった。
「あぁ…さみぃ……。」
独り言は電車の走る音にかき消される。
ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、俺は大あくびをした。
十二月は洋菓子店が一番忙しい時期。
夜遅くまで働き、朝早くからまた出勤。
一日中、立ち仕事で過酷な肉体労働。
……まぁ、一番下っ端だから当然なんだが。
製菓専門学校を卒業して一年、憧れていたパティシエの世界は俺の想像を遥かに越えた厳しい世界だった。
待っていたのは先にも挙げたような現実。
おまけに休みは少ない。
給料は安い。
体育会系の部活のノリがある主従関係。
それが、一見華やかな世界の裏側だ。
だが、夢を諦めるつもりはない。
専門学校時代の友人が次々に挫折して去っていっても。
寒かろうが、眠かろうが。
安い家賃のボロアパートで、ネズミが運動会をしようとも。
俺は諦めない。
日々精進、日々修業だ。