芽吹く前に
自転車をこいで田舎道を行く。
田んぼの稲も黄金色になり、柔らかい風に揺らされていた。
(夏も終わりか・・・)
夏の終わり、暑くなくなるのが少し嬉しい気持ちもあるが、秋の訪れによって、少し寒くなると気持ちも一緒に寂しくなるように思えた。
学校の近くの公園に自転車をとめ、そこから少し歩いて学校へ向かう。
一応、4時間目の授業に間に合うように家を出たが、結局間に合わなかった。
早く行き過ぎると、まだ授業をやっていて入りづらい、遅く行っても同じ事だが、授業と授業の間の5分の休憩に、間に合わせて到着することは、その日出来なかった。
(あぁ〜次の授業、始ってる・・・)
(入りずれぇ〜・・・)
少し遅刻した事で、家に帰りたくもなったが、せっかくケンタが誘ってくれたのだからと、入ることにした。
(とりあえず先生にあいさつだけするか・・・)
嫌な気持ちを抱えつつも窓に手をかける。
コソコソ入るのは嫌だったので前から戸を開ける。
ガラガラ・・・
マコトが教室に入ると、いきなりの珍客に驚いたかのように先生はこちらを見る。
「オマエ今頃来たのか?遅刻どころじゃないだろ・・・」
理科の教師が驚いたように嫌味を言ってくる。
(うるせぇな)と思ったが、なんて言ったら良いかわからなくて・・・
「あぁ、おはよ〜ございます・・・」
マコトは他の言葉が思いつかなかった。
そういうと教室の一部でドッと笑いが起きた。
(やばい、帰りてぇ・・・)
皆に笑われてしまった事で、ここからいなくなりたいとまた思った。
別に目立ちたいとか思っていなかった。
マコトは挨拶の後、教室を見渡した。
久しぶりに見た教室の光景は夏休み前と違い班替えも行われており、自分の席がどこかがわからなかった。
(席、俺の席・・・)
(二つ開いてる・・・)
(どっちだろ?)
近くにいた子に自分の席を聞く。
「俺の席、どっち?」
「向こうの席です・・・」
(えっ?何で敬語?タメじゃん・・・)
その時に対等に扱われなかった事に寂しさを感じ、少し苛ついた。
授業中でなければ、それを伝えられたが、その時は黙って自分の席に向かった。