芽吹く前に

相手もマコトが敬語でしゃべり始めたことで、もうすでに勝敗決したというような顔を浮かべ始めていた。
しかし、ケンタは違った。

「見てないよ、お前ら喧嘩売ってんの?」
ケンタはすでにやる気満々である。

「てめえ何、ため口聞いてんだよ。
やんのかよ?」

相手の奴も一瞬ひるんだように見えて、後ろにいる仲間の手前ひけない状況になっていた。

「やるなら、やろう。
バックとか、関係ねえぞ!」

ケンタのお決まり文句である。
あまり話していると後ろに誰が付いているだとかで相手をひるますような面倒くさい話になる。
しかし、その面倒くさいやり取りを省いてしまう。
ケンタはこういう時はいつもと全く違う顔を見せた。

今いる辺りはそいつらの地元らしく、人気のない場所へ案内された。
その案内されている途中マコトはケンタに小声で本音を告げた。

「俺、やる気が全然無いんだけど・・・」

マコトは変なスイッチがあって、そのスイッチが入るとどんな相手でも突っ込んでいくのだが、入らない時は相手がだれであれ、なすがままにやられてしまう事があった。
それはケンタも承知していた。

「さがってていいよ・・・」

お前、俺とタイマンはれよ。」

「あっ、上等だ!おまえなめてんじゃねえぞ!」

ケンタは160センチくらいの小柄で対してガタイも良くなかった。
それだからか相手がなめてかかってくる。
相手は175センチくらいで、ケンタより一回り以上大きく見えた。

「お前から来い。」

これもケンタの口癖である。
先に何故か、殴らせるのである。
相手が振りかぶりケンタの左ほほにパンチを命中させる。

バチィッ

相手のパンチがケンタの頬に当たる音がする。
殴られた後で、相手の体をケンタが引き寄せ、つかみ合いになる。
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