魔王家
魔王はアレンから受け取ったせんべいを見つめていた。

「遅くなって悪りぃ」

「あ、あ……」

アレンの言葉で魔王は自分がぼーっとしていた事に気づく。

「もえが胡麻せんべいが好きとまでは分かんなくて、普通のせんべいなんだけど勘弁してな」

メイヤや魔王の日記で知った魔王の好み。

今この時にこんな事を気にするアレンを魔王は、不思議な感覚で見る。

「そんな見るなよ。ガキの時に、次会う時はせんべいを持っていくって言っただろ?勇者は嘘をつかないんだぜ」

アレンの優しさ。

魔王は胸が痛くなった。

(何だ、この感覚は……)

魔王は今心が『邪悪な心』と化している。
しかし、アレンの優しさに触れ、異変が起き始めた。

(昔…小学生の時アレンに感じた小さな違和感と同じじゃ…)

魔王が今感じる違和感。
それは勇者アレンに対する恋心が邪悪な心と反発するもの、そして光の者に対する拒絶。

九歳の時にも、アレンにこの恋心と光の者に対する拒絶で違和感を感じていたのだ。

アレンはこれを狙っていた。

メイヤの宝箱の中にあった極秘資料で自分に気があることを思い出したから。

(だいぶオーラにぶれが出てきた。もう一押しかな)

「さぁそれ食べようぜ」
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