魔王家
「もえ、勇者の仕事って何だか分かるか?」

魔王はせんべいをほうばりながら答える。

緊張感がない。

「魔王の仕事が『勇者に倒されること』だから、逆に『魔王を倒すこと』じゃないのか」

アレンもせんべいを割りながら答える。

「当たらずも遠からず、半分当たり。俺の……勇者の仕事ってのは『救うこと』なんだ」

魔王は?マークを浮かべている。

もちろん口は動いたままで。

「魔王を倒し、恐怖から解放することで人々を救う。こういう意味ではもえが言ったことは半分当たりかな」

「へー」

人々の事には興味がない魔王。

勇者の仕事が『救うこと』なら魔王には縁のない話である。

「アレン、そんなことを言う為にもえにせんべいを与えたのか?」

魔王は少し凄んでみた。

しかし、魔王はその与えられたせんべいを食べながら言っているので迫力はない。

だがアレンはそうだ、と否定はしなかった。

「いい加減にしろアレン。ただの時間稼ぎなら早く始めるぞ」

魔王はせんべいを片手に我慢の限界を迎えていた。

「そうだよ……これを言いたかったんだよ」

アレンから言い知れぬ必死さが魔王に伝わっていた。
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