魔王家

―新月の夜―

魔王はいつもよりも早く、そしていつもよりも深い眠りについていた。


「マーサ、マーサ」

男の子が走ってきた。

「もう何よ、私一人で遊んでいるんだからあっちへ行って」

マーサと呼ばれている女の子は駆け寄ってきた男の子を邪険にしていた。

しかし、男の子は気にしていない様子で女の子が何をしているのか確認すべく覗いてきた。

「何してるの？あ！」

女の子は蝶の羽をむしりとり、それを蟻の巣の前に置いていた。

「そんなことしたら駄目だよ。蝶々さんがかわいそうだよ」

「何故？蟻に餌を与えただけよ」

男の子が注意するのも聞かずに女の子は延々とその様子を見ている。

「むやみに命を奪ってはいけないよ」

諭すように言ってみるが女の子には効果がなかった。


魔王はそこで目が覚めた。

外はまだ暗く、時計を見ても夜があけるまで二時間ほどあった。

起きてすぐは頭痛がひどく、起き上がることが出来ない。

「変な夢を見た。あの男の子アレンに似ておったな。もえは何故か蝶を殺しておったし、マーサと呼ばれていたな」

不可解な夢に悩みながら、また眠りについた。




修得：前世の記憶