魔王家
―話は戻って―

配役
魔王:もえ

勇者:アーサン

監督:メイヤ

「では始めましょう」

メイヤの合図で演目『魔王と勇者の対峙』は始まった。
ちゃんと雰囲気を出すためにアーサンは剣や鎧を装備している。

「ここまで来たことは誉めてやろ……」

「カット」

監督が止める。

「もっと雰囲気を出して台詞を言って」

監督はトレーナーを肩から羽織り、台本を丸めて注意した。

「メイヤが一番なりきってるね」

アーサンが呆れる。

「うるさい、お前は黙ってやってろ」

「すいません」

アーサンは勇者ではなく、ただのエキストラ扱いに等しい。

「用意……スタート」

監督の大きな合図と共に魔王の目つきが変わった。

「ここまで来たことは誉めてやる。しかし、余を倒せるのか勇者よ。返り討ちにしてくれるわ。余の力を思い知れ」

「黙れ魔王、覚悟し……」

「カット。上出来です魔王様」

監督は魔王の演技に非常に満足している。

「おい、アーサン誰がアドリブを入れろと言った」

「えー。僕もお手伝いをしたかっただけで……」

「うるさい、お前動くな」

既に監督はアーサンを勇者としてでもエキストラとしても見ておらず、勇者っぽい小道具扱いだった。
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