魔王家
「アーサンせんべいはどこじゃ」

「え、あ、その……」

稽古中にそんなもの持っているはずはない。

「どうした?早くせんべいを出すのじゃ」

またしても殺気を出し、アーサンを威嚇する。
好きな食べ物への執着心というものは誰でも計り知れないものだ。

今の魔王なら余計に。

「ないのか?」

アーサンは自分に向けられた凄まじい殺気のせいで何も言えなかった。

アーサンは動けない体で死を覚悟した。

「魔王様それくらいにしておいて下さい」

メイヤがせんべいとお茶を持ってやってきた。

「おお!」

せんべいを確認した魔王は殺気が消え、機嫌も直りせんべいを食べ始める。

「助かった」

アーサンはほっと胸を撫で下ろす。

「魔王様はついに『邪悪な心』を修得された」

メイヤが唐突にそんなことをアーサンに言った。

「なんでそんなこと分かるんだよ」

「アーサン、魔王様が今の今まで私たち部下に間違っても殺気など本気で出したりしたか?」

そんなことは一度もなかった。
メイヤは続ける。

「部下でも平気で切り捨てることが出来るようになったんだよ。この意味が分からないか?」

「なるほど、分かったよ……」

アーサンは魔王がどこか遠くに行ってしまった様な気がしていた。

メイヤの、いやマーサの思惑通りに魔王が文字通りの『魔王』になってしまった瞬間だった。




修得:邪悪な心
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