月曜は燃えるゴミの日
また、会話の糸口を失い、黙って歩く二人。
片道3分の道のりが、やたら長く感じる。
老婦人が、ちらりと二人を見て通り過ぎていった。
その視線にいたたまれなくなった澤木が、また口を開いた。
「・・・やっぱり持ちますよ!」
この居心地の悪さに比べれば、ゴミ袋の中身が例え、すべてル・クルーゼの鍋だったとしても持つ価値はある。
「いいのいいの!本当に大丈夫だってば」
敦子は、またもや澤木の親切を跳ね返した。
しかし、もはやル・クルーゼだって持つ覚悟のできている澤木は、そう簡単に引き下がらない。
「でも、かなり重そうですよ」
根岸敦子の手の指にビニール袋が食い込んで、指の先が紫色にうっ血している。
医学的に見ても好ましい状態ではない。
「ほんとに、いいの。これ、ちゃんと自分で全部捨てないと、ふんぎりつかないから」
理系の澤木には、「ふんぎり」という言葉はあまり馴染みはなかったのだが、なんとなく想像がついた。
彼女は何かを断ち切ろうとしているのだ。
「これね、全部元カレからもらったもんなの。こないだ、殴る蹴るのすっごい喧嘩して別れちゃってさ。だから、あいつからもらったもん全部捨てて、きれいさっぱり、あいつのこと忘れちゃおうってわけ。」
「・・・あ。もしかしてあのときの胃痛は」
勘の鋭い澤木は、その話でピンと来た。
「そ!さっすがセンセー、鋭いね!やけ酒飲んで、胃荒らしちゃったんだ」
「そうでしたか」
澤木は微笑んだ。
診察時には分からなかった、胃痛の本当の原因が、やっと分かった。
そんなことがあったなんて、想像すら、できなかった。
殴る蹴るの大喧嘩。
私は彼女より年上だが、そんな風に真剣に人と向き合ったことが、今まであったろうか。
私も、まだまだだな。
ゴミステーションが見えてくる。
「それにしても」
澤木が口を開いた。
「根岸さんにとってその元カレという方は、とても大切な方だったんですね」