傷、のちに愛
私は混乱していた。
確かに学生らしくない雰囲気ではあったけど、まさかまさか……
「あなた、大学教授なんですか?」
彼は入り口で突っ立っている私に向かってにこりと笑う。
「今月から着任した小早川千秋準教授です。来週からの『マーケティング論』は俺が授業するから、よろしくね?」
そう言い終わる頃には、彼は私のすぐそばにいた。
「和葉ちゃん、俺の好みなんだよね。フリーなら付き合ってよ」
「なっ――…」
反論しようとした瞬間、私の後頭部には彼の手が回っていた。
――そしてそのまま、唇に何かがぶつかった。
一瞬だけ触れ、わざと鳴らしたようなリップ音をたてて離れていく。
.