傷、のちに愛



顔を上げているのに、小早川千秋の顔がぼやけて見える。

あぁ。
私、泣いているんだ。

「…これでこの話は終わりです。さようなら、先生」

私は手のひらで涙を拭き、立ち上がった。

さすがにもう追う気にもなれないのだろう。
彼はただ呆然としている。

背中を向け、歩き出したときだった。

「和葉」

普段よりも低く、響くような声。
私はつい足を止めてしまった。

「…好きだよ」

ぽつりとささやかれた告白。

宙を舞い、着地する前に私が拒絶してあげる。

「私は恋をしません」



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