傷、のちに愛
私だってそこまで馬鹿じゃない。
彼はきっとそんなつもりじゃない。
頭ではわかっていても、心がついていかない。
「…ごめんなさい」
なにに対して謝っているの?
彼に?
自分自身に?
「…和葉ちゃん。手、貸して」
気づくと車はとっくにアパートの前に止まっていて、彼はシートベルトを外しこちらに向き直っていた。
私はかすかに震える右手をおずおずと差し出す。
すると、彼の指が私の手の甲をなぞるように触れてきた。
「大丈夫、…俺の顔、ちゃんと見て」
言われるがまま、私は目線をあげる。
二人の指が絡まって一つにまとまる。
いつからか、震えが止まっていた。
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