傷、のちに愛
そのままなにもしないで、私たちは見つめ合っていた。
辺りが暗くてよかった。
今の私は、誰にも見せたくないくらい困惑した表情のはずだ。
「和葉」
囁くような声で名前を呼ばれる。
私はもう、息もできないほど緊張していた。
「…笑ってくれよ」
彼の顔は見えないままで、ただ切実な声。
「笑えないなら、泣いてくれ」
そんなこと言わないで。
そんな風に言わないでよ。
「楽になれよ」
―――だめ。
涙腺が壊れちゃうよ。
もう後戻りできない。
そう感じてしまった。
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