傷、のちに愛
8:苦しむように
「…先生、手」
頬に触れっぱなしの彼の手をどけてもらおうとすると、わざと両手で私の顔を挟み込むようにもう片方を添えてきた。
「ちゃんと俺の名前呼んでくれたら考えてやるよ」
意地悪そうに笑い、そう言う彼に私は戸惑った。
ますます顔が熱くなってくる。
「…わかりました!名前で呼べばいいんですね?」
私は息を吸い、意を決して言葉を放つ。
たかが名前を呼ぶだけなのにこんなに緊張するなんて。
「……千秋さん」
俯きながら、そう呟いてみた。
なのに頬に添えられた手はどけてくれない。
私は、恥ずかしさのあまり上目遣いで彼を睨んだ。
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