傷、のちに愛



―――週明け、遥は大学までやって来た。

「ねぇ、千秋。…私千秋のこと諦めるわ」

いきなりそう言う遥に警戒しつつも、俺は用事のためいったん部屋を離れた。

…携帯を部屋に置きっぱなしで。

その間に、あいつは俺になりすまして和葉にメールを送っていた。

罠をかけたんだ。

「ねぇ、千秋。最後にキスしてくれたら諦める。二度と近づかないわ」

戻ってきた俺に、遥はそう持ちかける。

俺は動かなかった。
そして暗黙の了解のように腕を回し、唇を重ねてきた。

以前だったらむしゃぶりついただろう。

でも今は、たった一瞬触れただけの和葉の唇がほしかった。

何も感じないキス。

遥のかけた罠は完成した。



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