傷、のちに愛



―――薄暗い廊下を歩く。
ここは研究室のドアが並ぶ経済学部棟。

その奥に“小早川研究室”と書かれたプレートを発見した。

まだ新しいそれを眺め、私は意を決してノックをした。

――コンコン

「経済学部の島貫和葉です」

そう声をかけ、返事を待っていると背後から声がした。

「よう、和葉ちゃん。顔色よくなったな」

低く、響く声。
振り返ると、午前中に会ったあの男の人が立っていた。

「早かったな」

そう言うと、研究室の鍵を開けてドアを開けた。

「おいで。お茶くらい出すよ?」



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