誘う手の群れ
ふたりは同時に驚きの声を発してしまった。

そこには宙に浮かぶひとりの老婆の姿があった。

老婆はかごめ模様の質素な着物姿で空中で正座をして一心不乱になにかを拝んでいた。

青白い肌からかすかな光が放たれていてこの世のものではないことが誰の目から見ても疑いの余地はなかった。


「ヤバイッ!」


「逃げよう!」


ふたりはそう言うと同時にもと来た道を一目散に走り出した。

真っ暗な洞窟内だから懐中電灯の光だけを頼りにして逃げるわけだから、そう早く走ることができなかったが、それでもふたりは無我夢中で洞窟の出口まで逃げのびた。

それから山道を駆け下りて野島神社に留めた自転車のところまで一気に走った。

あたりは夕闇が立ち込めて薄暗くなっていたが、洞窟内の暗闇とくらべればまだ幾分かマシだった。

自転車を押しながら呼吸を整える。
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