氷菓少年は天然少女にかなわない
俊哉と笑佳が教室に戻ると佐助がほっと胸を撫で下ろす。



「よかったあ〜えみが無事で。でも、どうして俊哉なわけ?」

「……梨久は?」



不思議そうな顔の佐助と余裕のない春夜の顔を見比べ、俊哉は首を振る。



「いや……おれたちは会ってない。梨久がどうかしたのか?」

「ならいい、俺ちょっと梨久探してくるわ」



いつもの笑顔を浮かべ春夜が教室を出て行った。笑佳が佐助の顔を見ると、気まずそうに言う。



「いや〜まさか俊哉がえみのピンチに駆けつけるなんて思わなくてさ……」

「わたしもりっくん探しに!」

「とりあえず春夜に任せとけば大丈夫だよ。あの二人は幼なじみだし!」

「そう、だね」



笑佳は自分の席に座りそっと隣を見た。隣に梨久がいないのがこんなに寂しいとは思わず、ため息をついた。



その様子を見ていた俊哉は何故こんなに転校生の彼女が気になるのか、わからずちいさな胸の痛みに戸惑いを隠せない。






これが『恋』なんて、この時はまだ気づかなかった――






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