氷菓少年は天然少女にかなわない
広々としたホールの中はまるで結婚式会場のように、豪華できらびやかである。校長がこの日のために、業者を呼んで特設したと言うから驚きだ。



刺繍の入った真っ白なテーブルクロスが広げられたテーブルがいくつもあり、その上には俊哉考案の弁当と笑佳のクッキー、ペットボトル数本と紙コップが並ぶ。



中央にはチューリップやかすみそう、春の花で作った花が籠に入って置かれている。



舞台のある奥の方に引っ張って来られた梨久はやはりぶすっとしていた。



それを見た春夜たちは苦笑するしかない。機嫌の悪い梨久は、誰より扱いづらく“触らぬ神に祟りなし”ならぬ、“触らぬ梨久に祟りなし”とクラスメイトでの間で密かに恐れられている。



その時、ひょっこりと優しそうな先輩がにへらと笑みを浮かべた。



「ごめんね?うちのこうが迷惑かけちゃったみたいで」

「可愛いって梨久には禁句なんですよ、多分ほっとけば直ります。先輩の名前はなんですか?」

「梨本南ね。みーくんって呼ぶ子多いし、みーくんでもいいよ?よろしくね」

「はい、よろしくお願いします!!!」



ピンクの髪のどこかふわふわした南にでれでれした春夜を盗み見ながら、梨久は呆れた。相変わらず、自分の幼なじみの趣味は理解できない。



梨久が呆れていると自分を連れ去った港平がいきなり割り込み、南を引き寄せる。



春夜が思わず固まる。



「だめだめ!!!南は俺のなんだから」

「ふふ、ごめんね。こうって独占欲強いんだ」



港平に引き寄せられたまま、南はにっこり微笑む。



「……変な先輩ばっか」



笑佳の作ったクッキーを一口食べると、優しい味が口の中に広がり自然にまたクッキーに手が伸びる。



「嫌いじゃないかも」



梨久の零した呟きはここにいる誰にも聞こえなかった。



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