氷菓少年は天然少女にかなわない
梨久が黙っていると、佐助が突然声をあげる。



「うわ、周りもう誰も歩いてないじゃん!冗談抜きで急がないとヤバいって」

「俊哉と笑佳ちゃんも先行ったし、教室まで競争な」

「へーん、負けないもんねっ」

「……梨久も急げよ」



耳元でボソッと呟き、春夜と佐助は走っていった。



梨久は苦笑する。



「また変な気遣わせたな、はるに。急がなきゃいけないのわかってるけど……二人を見ていたくない、なんて。オレもどうかしてるな」



周りから音が失くなってしまったかのように、何の音も聞こえない。



あの時以来の、ある意味懐かしい感覚。



世界からすべて音が消えてしまった、大切なものを失ってしまったあの日。



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