氷菓少年は天然少女にかなわない
これ以上この教室にいたくなくて、気づけばこう言っていた。



「ちょっと気分悪いんで、保健室に行ってもいいですか」

「確かに顔色悪いし、仕方ないな。一人で大丈夫か?」

「はい」



梨久は重い足取りで教室を後にした。



友達と初めてできた微妙な距離感。



「……らしくないし」



夏休みが始まれば、必要以上に会う必要もない。



「梨久」



名前を呼ばれた瞬間、足がピタリと止まる。止めたくなんてないのに。



今、一番聞きたくない声。



「……なに」



振り返らずに問えば。



「付き添うよ、笑佳も心配してたし」

「……だったら尚更、つきそう必要なんてない。じゃあ」

「――おれは、もう逃げない。おれは笑佳が好きだ」



心臓の音がうるさい。



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