乱華~羽をくれた君~【完】
陸さんを見るとかすかに驚いていたが、平常心を保っているように見えた。
「母は・・・どこにいたんですか?」
「埼玉だ。私ん家の近くの歯科医院で働いていたよ。見覚えのある顔だったからもしかしてと思って少し話してみたら・・昔こっちに住んでいたことがあるって言われてね。名札の名字を覚えてこの前施設で聞いてみたんだ。そしたらビンゴだったよ。彼女は・・・きっと君の母親だ。」
「・・・そうですか」
そう言い、俯く陸さんにあたしは言った。
「陸さん、会いに行くでしょ!?」
「・・・・・・」
「今会わなきゃ次またどこで会えるか・・・」
「会ってどうするんだよ」
「え・・・?」
「あっちだって困るだろ・・・今の生活があるかもしんねーのに・・・わざわざ昔の嫌な事を思い出させなくても・・・それに俺はもう親は死んだものだと思ってる」
「陸さん・・・」
なんとかならないものかと悩んでいると、佐々木さんが私たちを見てつぶやいた。
「今でも覚えている」
「え?」
「君と君の母親が初めて岩沢に来た日の事を・・・まだ小さかった陸くんは彼女の腕の中ですやすや眠っていた。2人の顔や腕には殴れた痣があってね・・・彼女は泣きながら『助けてください』と言ったんだ。『あの男には二度と会わせない様に陸を守ってください』とね。まだ若かった彼女も限界だったんだろう」