乱華~羽をくれた君~【完】
その女性の名札には【神崎】と書かれている。
近くで見るとますます陸さんに似ていた。
「こんにちは。初めての方ですか?」
彼女はあたし達の方を向くなり、驚倒した表情でその場に立ちすくんだ。
「・・・・・・久しぶり」
陸さんが少し照れくさそうに言う。
「・・・・・・陸?」
片手で口を押さえながら驚きを隠せないといった感じだった。
彼女の目には涙がたまっていた。
院長に許可をもらえたということで、あたし達は近所のカフェへ行くことになった。
30代後半くらいの彼女は、陸さんの母親と思えないほど若々しく、美人だ。
いつもこのカフェに来ているのか、慣れた口調でコーヒーを頼むと、まじまじと陸さんの顔を見つめていた。
「・・・本当に陸なのね・・・?」
「・・・ああ。俺の事覚えてねぇと思った」
「忘れるわけないじゃない。でもまさかこうやって会いに来てくれるなんて夢にも思わなかった・・・陸は私の事恨んでいるって思ってたから・・・」
陸さんのお母さんは少し寂しげな表情で砂糖とミルクを入れたコーヒーをくるくるかきまわす。