乱華~羽をくれた君~【完】
駅前のタクシーに乗り込むと、栞は運転手に海岸へ行くよう伝えた。
タクシーは夜の街並みを通り抜け、海岸沿いに出た。
いつも見ている風景なのに、今日は違って見える。
今までは親の機嫌を損ねないよう、必死にいい子を貫いてきた。
もちろん夜遊びなんてしたこともない。
辺りは暗くて、前の車のテイルランプが眩しい。
あたしにとっては何もかもが新鮮だった。
「すいませーん。あそこのガソスタで止めてくれます?」
栞が身を乗り出し運転手にそう告げると、タクシーは海岸沿いのガソリンスタンドで停車した。
タクシーから降りると、海から涼しい風が吹いた。潮の匂いがする。
夜の海は寂しく、そして怖い。
あたし達は海岸沿いを歩いた。
遠くを見ると、灯台のようなものがチカチカしてる。
まだ夜の8時過ぎで、国道は車の往来が激しく、栞の話し声が途切れ途切れに聞こえていた。