未来観測
あたしの声に反応した彼女はふと顔をあげ
真っ赤な瞳をこちらに向ける

その瞬間
彼女の瞳からどっと涙が溢れた


「えりちゃぁん…」


そう一言だけ発した彼女は
あたしにしがみ付き、赤ん坊のように泣き始める



「…浅岡さん。
とりあえず教室入ろ?
そしたら話し聞くから」


ゆっくりと背中をさすりながら教室に誘導すると
彼女はおとなしくあたしの言葉に従った




泣いている原因はすでに分かっていた。
そしてそれが誰のせいかも。
その証拠に、あたしの心臓は苦しいくらいに暴れ始めていて
おまけにいつもの教室が息苦しいくらいに狭く感じられたから。



それから30分ほど。
あたしは浅岡さんから“彼氏”と別れてしまった経緯を延々と聞かされた

その言葉たちはまるで、あたしに与えられた罰のように
あたしの胸をゆっくりとえぐっていく


一年も付き合ったのに。
ずっとずっと一緒にいようって言ってたのに。
彼に別の好きな人ができてしまったんだと泣く彼女。


あたしはずっと黙ってその話しを聞いていた

何も言えなかった。

言えるはずがなかった。



彼女は思いもしないだろう。

目の前にいるあたしこそが

あなたにとってのその“原因”なのだと

きっと考えすらしないのだから






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