ブラック・コーヒー
兄は家族でティー・タイムを過ごすとき決まってコーヒーをブラックで飲んだ。

母は一つだけ違うものを入れるのは面倒だと言いながらも、いつも父と自分には砂糖一杯、僕には砂糖二杯のそれぞれミルクをたっぷりと入れた三杯のミルク・ティーと、一杯のブラック・コーヒーを入れてくれた。
 
子供の頃の僕には、兄の飲んでいたその真っ黒い飲み物は少し奇抜にも映ったが、いかにも大人の飲み物という感じがして、それを飲んでいる兄がとても格好良く思えた。


「この苦味がたまらなく美味いんだ」
 
兄はよくそんなことを言いながら、本当に美味そうに飲んでいた。
 

一度、試しに一口だけ飲ませてもらったことがある。

しかし当時の僕はそれをただ苦いと、それもとてつもなく苦いと感じただけだった。

こんなものを美味いと感じるなんて・・・・とますます兄への憧憬は深まり、いつか僕も兄に追いつきたい。

そんな思いも強まった。


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