幾千の時を超えて
「沙耶ちゃんは、本当にしっかりしてるんですよ。沙智子さんの代わりに家のことをしたりしていましたから」


手伝ってくれていたアパートの住人がフォローをしてくれた。

彼女にはずいぶん世話になっていたから、私の異常さにも慣れている。

最初は奇妙な顔をされたが、もう5年の付き合いだ、天才の一言で納得していた。


「……そうですか。しかし、我々にも沙智子さんの家族としてお手伝いさせていただきたい。告別式の方はどうなっているのでしょうか?」

「ああ、それは、市の職員さんが葬儀屋さんを手配してくれて火葬だけは近くの火葬場でしてくれるそうですよ。
 そうだったわよね、沙耶ちゃん」

「ええ。特に凝った葬儀は挙げない予定です。弔問客も少ないですし、費用もかかりますから」


「費用のことでしたら私たちが出します。家族ですからそれくらいは――」

「いえ、母の希望ですから、結構です」


そう、それは彼女の希望だった。

うちに余分な金銭がないことは知っていたので、慎ましい葬式を希望していた。

彼女は自分が長くないことも知っていたから、身辺整理も自分で行っていた。


「しかし……」

「いくら母の家族といえども、ご迷惑をおかけするわけにはいきませんので」


わざわざそこまでやってもらう謂れはない。

弔問に訪れてくれただけで十分である。

二度と会うこともないだろうし――。


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