幾千の時を超えて
「――ごめんください、こちら芹沢沙智子さんのお宅でしょうか?」


戸口から遠慮げな声が聞こえてきた。

視線を向けると、玄関の扉を開けて30代半ばと思われる男女が立っていた。

質のよさそうな喪服に身を包み、どこか憔悴した顔をした二人。

男性の方は意志の強そうな瞳に、造作の整った顔をしている。

女性の方は、柔らかそうな丸顔と栗色の髪に、優しげな瞳。

どこか彼女に、私の母親に似ている。


……彼女の縁者か? しかし、住まいを伝える前に電話を切られたんだが。

不審に思っていると、その女性の方が私を視界にとらえ、瞳に涙を浮かべた。


「あなたが沙耶ちゃん……?」

「……そうですが、貴女は?」


私がそう答えると、感極まったように涙を流し、抱きついてきた。

……苦しい。


「ごめんね、今まで一人にして! 辛かったでしょ? もう大丈夫だからね!」


いや、別に辛くなかったので質問に答えてほしい。


「吉乃、落ち着きなさい。すまないね沙耶ちゃん、驚かせて。」


男性の方が吉乃と呼ばれた女性に落ち着くよう声をかけた。


「私たちは君の伯母さん……、吉乃が君のお母さんのお姉さんにあたるんだよ。
 つまり、君の家族だ。」



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